第3部目次
前ページ
次ページ
3-4: プランクの公式

   前ページで 「空洞」(真空) の比熱 について学びました. その結果,ごく素朴に エネルギー等分配則 を応用すると真空の比熱は 無限大となって, 現実とは異なって しまいます. 空洞放射では エネルギー等分配の法則は 成立しないのでしょうか. 古典論 (ニュートン力学や マクスウェルの電磁気学 やそれらから導かれる 古典統計力学) に基づくかぎり, これはどうにもならない 結論です. 古典論のどこかが 間違っている のでしょうか. これこそ19世紀終盤の 物理学上の 最大の難問でした.

  「レーリー・ジーンズの公式」
 前ページで議論したように, 真空中の電磁場において, 振動数がνとν+dν の間の 固有振動の数 は, マクスウェルの電磁気学 を使うと,単位体積当たり

となります. エネルギー等分配の法則 にしたがって, これらの固有振動の全てに kT のエネルギーが 分配されるとすると, 単位体積当たり, νとν+dν の間の振動数を持つ 光 (放射) のエネルギー U(ν)dν

となります. これが レーリー (イギリス:1842 - 1919)と ジーンズ (イギリス:1877 - 1946) によって提案された レーリー・ジーンズの公式 です.

 製鉄所の溶鉱炉のような 高温の中に, どのような振動数の光が どのような強さで存在するかを 測定すれば, 空洞放射の スペクトル (振動数毎の強度分布) が測定できます. 下図その実測値が示されています.

  空洞放射のスペクトルの実測値
図中の実線の山の頂上の 点の横軸の位置が 最も明るい光の振動数を 示しています. この振動数が温度と共に 大きくなるということから, 温度が上がると 空洞内の光の色が 赤からだんだん白に 変化していくことを 示しています. 図中の破線 は,温度が 1646 K の場合の レーリー・ジーンズの公式 の強度分布です.

   たとえば, 鉄のかたまりを 熱すると, 温度が低いときは 黒く,温度が 1000 ℃ くらいになると 鮮やかに赤くなり, 1500 ℃ くらいになると白く まぶしく輝きます. したがって,放射の強さや 色は温度によって異なります. この様子が 上図示されているわけです.
 上図 には レーリー・ジーンズの公式 の値が 破線示されています. 振動数が小さいときには レーリー・ジーンズの公式は 実測値によく合っています. 振動数が大きいときには 全くだめです. どうやら 大きい振動数に対しては エネルギー等分配の法則は 成り立たない ようです.

  「ウィーンの公式」
 ウィーン (ドイツ: 1864 - 1928) は エネルギー等分配の法則を 使わないで,空洞放射の エネルギー分布が どのような式で 表されるかについて 大変巧妙で一般的な考え方を 展開しました(1896). ウィーンのアイデアを 詳しく説明するのは かなり面倒ですから, ここでは省略して 結果のみを紹介しましょう.
 ウィーンによれば 空洞放射の 単位体積当たりの エネルギー分布 U(ν)dν

と書かれます. ウィーンの議論だけからでは 関数 F(x)関数形はわかりませんが, 大切なことは この関数が 振動数 νと 温度 T との 比で決まるということです. 実験結果は 確かにぴったりと この法則に合っています. これを ウィーンの法則 (或いはウィーンの変位則) と呼んでいます.
 空洞内の 最も明るい光の波長を λm とすると, 上の法則から

という式が得られますが, この法則はしばしば ウィーンの変位則 と呼ばれます.
 また,ウィーンの法則 において F(x) = k/x とすれば, レーリー・ジーンズの公式 が出てきます.
 ウィーンは関数 F(x) として

と取れば, エネルギー分布 U(ν)dν

となり,定数βを適当に きめると,高い振動数の 領域で,実験値に大変よく合う ことを示しました. これを ウィーンの公式 といいます.

  「プランクの公式」
 空洞放射のエネルギー分布 に関する レーリー・ジーンズの公式振動数の 小さい 領域 で実験値によく合い, ウィーンの公式振動数の 大きい 領域 でよく合います. そこで プランク (ドイツ: 1858 - 1947) はこの2つの公式を つなぐ内挿的公式を 見つけました(1900). これこそ プランクの公式 と呼ばれる 19世紀の終末を 飾る大発見でした.
 プランクは, 上で述べたウィーンの法則 において関数 F(x) として

とすればよい ということを 見つけました. そうすると 空洞放射の エネルギー分布は

となります. これが有名な プランクの公式 です. 式の中の kボルツマン定数です. また,定数βは 実験に良く合うように 決めます. 通常 kβ = h と書き,h プランク定数 と呼んでいます. その値は
h = 6.626 × 10-34 J・s
です. プランクの公式が実験値を いかに良く再現するか 下図 で明らかでしょう.

  空洞放射のスペクトルとプランクの公式の値
丸印は実験値. 実線はプランクの公式 の値. 横軸が振動数ではなく, 波長になっているから 注意して下さい. (波長)×(振動数) = (光速) です.




  「3つの公式の比較」
 レーリー・ジーンズ の公式振動数 ν が小さいときに 実験値によく合い, ウィーンの公式振動数 ν が大きいときに 実験値によく 合います. 上に述べたように, プランクの公式振動数 ν の全ての領域にわたって 実験値に見事に 合致しました.
 これら3つの公式を 比較したものが, 下の図 です. この図から, プランクの公式レーリー・ジーンズ の公式と ウィーンの公式とを つなぐ公式 (内挿公式) となっている ことがよく分かります.

  3つの公式の比較
レーリー・ジーンズの公式, ウィーンの公式, プランクの公式 比較.



トップ
  第3部目次へ戻る 前ページへ戻る 次ページへ進む