第3部目次
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3-6: 光量子仮説 と 光電効果

  「アインシュタインの 光量子仮説」
 前ページで学んだように, 空洞内の放射 (光) の エネルギーは, hν を単位として, その整数倍となっている ことがわかりました. これは 古典論 (ニュートン力学と マクスウェルの電磁気学) ではどうにも説明することが できません.  その理由は次の通りです:
 空洞は周囲の壁 (熱溜) と 時々刻々エネルギーの やり取りをしていますが, 平均的 には 「やる」 量と 「とる」 量とが 等しく,平衡を保っています. しかし,瞬間的には 常にやったり,とったり していますので, 空洞内の放射の エネルギーは 常にゆらいでいます. その ゆらぎhν を単位として, その整数倍となっている はずです. つまり hν という きまった単位の 光が空洞の壁から 瞬間的に出たり入ったり しているわけです.
 このような有限の エネルギーが 瞬間的移動するということは 古典論では あり得ません. したがって, プランクの エネルギー量子 の考え方は 古典論では 説明できません.
 1905年,アインシュタイン は,「光は 粒子のように つぶつぶになって 空間内に存在している」 という, 光量子仮説 を提案しました.

「奇跡の年」
 1905年という年は 科学史上 「奇跡の年」 でした.
 この1年間に, アインシュタイン は 3つの偉大な論文を 発表し, そのいずれもが ノーベル賞に値する 独立した 業績でした. それらは, 特殊相対性理論ブラウン運動の理論そしてこのページで 説明する 光量子仮説提唱でした. 以下で述べるように, その中には 光量子仮説を 実験的に裏付ける 光電効果の理論 も含まれていました.
 たった1年の間に, スイスのベルンの特許局の 1職員だった アインシュタインによって, これらの偉大な業績が もたらされたということは 「奇跡」というほかありません.

  「光電効果」
 金属の表面に 光を当てると荷電粒子が 飛び出す 光電効果 は,電磁波の実験中に ヘルツ (ドイツ: 1857 - 94) によって発見されました(1887). レーナルト (ドイツ: 1862 - 1947) は この荷電粒子の比電荷 を測定し,それが電子 であることを確認しました(1900). 光電効果を確かめる 実験装置の 概念図は下図 の通りです.

  光電効果を確かめる実験装置
真空のガラス管内に 2枚の電極を置き, 一方の電極に 紫外線を当てると, 当てたほうの電極が マイナスの場合 (A) 電流が流れますが, 逆の場合 (B) 電流は流れません.



  「アインシュタインの 光電効果に関する理論」
 上に述べた光量子仮説 に基づいて, アインシュタイン は, 1905年に, 光電効果に関する 次のような仮説を 提唱しました.
 振動数が ν の光は hν のエネルギーの かたまりとなって 金属内の電子に吸収され, 電子がもらった エネルギー hν が 金属の内側から 外側に電子を運ぶのに 必要なエネルギー W より大きい場合には 電子は外側に 放出されます. したがって,出てくる電子 (光電子といいます) のエネルギーの最大値は
E = hν - W
となるはずだ というのです. (下の左図 (A) 参照).
 W仕事関数 と呼ばれ, 熱電子 に関する リチャードソン の研究において既に 知られていました.

  「光電効果に関する ミリカンの実験」
 上記のアインシュタインの 考えは,1916年に ミリカン によって行われた 実験によって 鮮やかに証明されました. 実験装置の概略は 上の右図 (B) です.
 ミリカンの実験結果を まとめておきます.
 (1) 電圧 V を十分高くして, 光電効果により 飛び出した電子 (光電子) を 全て陽極に集めると, 流れる電流は 陰極に照射した 光の強さに比例する.
 (2) どのような金属面に対しても, 光電効果の 起こり得る最小の 振動数があり, それ以下の 振動数の光では どんなに強い光でも 光電効果は 起こらない.
 (3) 光電子のもつ 最大の運動エネルギーは 光の強さに 無関係である.
 (4) 光電子のもつ 最大の運動エネルギーは 光の振動数によって 直線的に変化し, アインシュタインの 仮説
E = hν - W
に完全に一致している.
 ミリカンはこの実験から 定数 h を求めたところ, h = 6.58×10-34J・s となり, プランクが空洞放射から 得たものに良く 一致していました.

  「古典論の困難」
 上の光電効果に関する ミリカンの実験結果を 古典論で説明することは 困難です.
 光が 金属面にあたると, 光の電磁場によって 金属内の電子が 激しく揺さぶられて エネルギーが与えられ, 金属内に留まって いられる 限界を超えると, 金属表面から 飛び出すであろう ことは古典論で 容易に想像がつきます. 古典論によると, このとき電子に与えられる エネルギーは 電磁場の強さの 2乗に比例するはずです. したがって, 放出される 光電子の最大エネルギーは あてた光の 強さに依存するはずですが, これはミリカンの 実験結果とは 完全に矛盾します. 上にまとめた ミリカンの実験結果のうち, (2)(3)(4) は古典論では 全く説明がつきません.
 また,光電効果の 起きる時間についても 説明ができません. 代表的な金属の 仕事関数 W の大きさは 2 〜 6 eV です. (1 eV ≒ 1.6×10 -19 J) いま W = 2 eV ≒ 3×10 -19 J の金属による 光電効果を考えましょう. 1 W (ワット) の 光源から 1 m 離れた 点の 1 cm 2 の面積を 1 s (秒) 間に 通過する光の エネルギーは 約 10 -5 J/(s・cm 2) です. この光を金属に 照射するとき, 原子の断面積はだいたい 3×10 -16 cm2 の程度ですから, 1個の原子に当たる 光のエネルギーは 1秒あたり 約 3×10 -21 J/s です. このエネルギーを 原子が全て吸収し, それが電子1個にすべて 与えられ,その結果 光電効果が 起きると考えましょう. このエネルギーが 上の仕事関数 3×10 -19 J を越えるまで 蓄積するには 100 秒かかります. つまり光を当て始めて 約 100 秒 経たなければ 光電子は飛び出さない ことになります. ところが 実際には,光電効果は 光源のスイッチを 入れた瞬間に 起こります.
 アインシュタインの 仮説のように,光は hν のエネルギーの かたまりとなって 金属内の電子に 一瞬に吸収される と考えると, 全ては矛盾無く 理解することが できます.

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