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3-7: コンプトン効果

   前ページで学んだように, アインシュタインは 光量子仮説 を提唱し, それに基づいて 光電効果を 説明することに 成功しました. その結果, 光はエネルギー hν をもった「粒子」 となって 空間に存在することが 確実になりました.
 光の粒子性さらに確実にしたのが 以下で説明する コンプトン効果 でした. 1923年,コンプトン (アメリカ: 1892 - 1962) は 結晶による X 線の散乱の現象が 光の粒子性によって 見事に説明できると ということを 発見しました. (現象そのものは もちろん以前から よく知られていました.)
 粒子 (電子) による X 線の散乱を コンプトン散乱 と呼ぶこともあります. コンプトン散乱の 実験結果は X 線が「粒子」となって 結晶中の電子という 「粒子」に衝突して 散乱される と考えることによって 説明できます. ちょうど「玉突き」(ビリヤード) の球の衝突を 連想してください. そのために,まず 光量子 (光の粒子) の 運動量 を考えなければ なりません.

  「光量子の運動量」
 光量子は hν という エネルギーをもった「粒子」 であることは既に 説明しました. この「粒子」は 同時に 運動量持っているはずです. なぜかというと, 光は周囲の 壁に圧力を与えていることが 分かっているからです.
 振動数が ν の 光で満たされている 容器を考えましょう. 光が周囲の壁に 与える圧力を P単位体積あたりの 光のエネルギーを U とすると,
P = U /3
であることが 実験的にわかっています. この関係式は 古典論からも導くことが できます. この関係式から,1個の 光量子の運動量 p
p = hν/ c = h
となります. つまり,光量子の運動量エネルギー hν を 光速 c割ったものです. この結果は, 気体分子の運動と 圧力などとの関係を 求めた方法と 同様にして 導くことができますが, その説明については,別のページ
3-7-A: 光量子の運動量
をご覧下さい.

  「光量子説によるコンプトン効果」
 コンプトンは, 単色の (波長が一定の) X 線を黒鉛 (炭素の結晶) に 照射したとき, 散乱角が大きくなると 散乱された X 線の波長が 長くなることを 見出しました. これは古典論では 説明がつきません. 古典論では 入射した X 線が荷電粒子 (電子) を振動させ, その振動する荷電粒子が 同じ振動数の電磁波 (X 線) を四方に 放射 (散乱) する と考えられます. したがって,散乱された X 線の 波長は入射した X 線の 波長と等しいはず だからです.
 コンプトンは, 下図 のように, 入射したX 線が 「粒子」として電子に 衝突し 散乱されると 考えました. 入射した X 線の「粒子」の エネルギーを hν, 運動量を hν/ c とし,散乱角 θ の方向に 散乱された X 線の「粒子」の エネルギーを hν', 運動量を hν'/ c とします. 衝突された電子 (質量 m ) も 跳ね飛ばされます. その電子を 反跳電子 といいます. その運動量を mv とします.

 上図 (A)コンプトン散乱における エネルギーと運動量の 関係です. 上図 (B)そのときの運動量保存則 を表しています.
 運動量保存則 (上図 (B)) から すぐわかるように,

となりますが, ν ≒ ν' ですから

が成り立ち, これを上式に代入すると,

となります. 一方,エネルギー保存則から

したがって, 角度 θ の方向に 散乱される波長 λ' と 入射 X 線の波長 λ との 差 刄ノ は

となります. したがって, 散乱角θが 大きくなるに従って 散乱 X 線の波長は 長くなることに なります.
 下図コンプトンによる 散乱角θが 0°,45°,90°,135° の場合の 実験結果が 示されています. グラフは 散乱 X 線の強さ (縦軸) を 波長 (横軸) の関数として 表しています. 散乱角θが大きくなると, ピークが 2つに分かれて, 右側の波長の長い (λ' の) ピークがだんだんと 長い波長のほうに 動いていきます. このλ' の結果は 上の式にぴったり 合致しています. X 線の 粒子性 が見事に実証されたわけです. なお,左側のピークは 波長が入射 X 線の それに等しく,これは 原子全体による 散乱波であり,原子が 重いので波長は 変化しないと考えられます.


 以上のように, コンプトン散乱は X 線の粒子性によって 見事に説明されましたが, コンプトンの実験では はじき飛ばされた 反跳電子観測はできませんでした. これは少し後に ウィルソンの霧箱 を使って写真に 撮ることができました.

  「光子」
 1905年にアインシュタインが 光量子仮説提唱した後,人々は 20年近くも 光の粒子説 に疑いを持っていました. しかし コンプトン効果実験結果を見せつけられては, もはや光の粒子性疑うわけには 行かなくなりました. これ以後, 光の粒子光子 (photon) と呼ばれて, 電子 (electron) や 陽子 (proton) などと 一緒に 粒子仲間入りをすることに なりました.

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