第4部目次
次ページ
4-1: 有核原子模型の困難


   第2部で学んだように, ラザフォードは 原子の構造に関する 有核原子模型 を提唱し,原子による α線の散乱の実験を 見事に説明することが できました.
 しかし 第2部のまとめ でも少し触れましたが, 古典論 (ニュートン力学と マクスウェルの電磁気学) の立場から言えば, 有核原子模型は 原子の安定性原子のスペクトル説明することが できませんでした. ここで,古典論は 行き詰まって しまったのです.

「原子の安定性に関する困難」
 ラザフォードの 有核原子模型では +Ze (Z は原子量) の電荷をもった重い 原子核原子の中心にあり, その周りを軽い電子が 取り巻いて運動して いるという イメージでした. この構造が不安定である ということを説明しましょう.
 マクスウェルの電磁気学 によると, 加速度 α をもって運動する 荷電粒子は, 電磁波を放射し, 単位時間ごとに

のエネルギーを失います. (右辺のマイナス符号は エネルギーを失う からです.)
 いま簡単のため, 陽子 1個のまわりを 電子が1個 回っている 水素原子考えます. 陽子は十分重いので 座標原点に静止しているとし, 電子は陽子の周囲を 半径 r の円運動を行って いるとしましょう. このときのニュートンの 運動方程式は

です.右辺は陽子と電子の 間のクーロン力の大きさです.
 (1) 式と (2) 式から, 単位時間に電子が失う エネルギーは

となります. 一方,この円運動において 電子のエネルギー

ですから,

が得られます.
 さて, 電子はエネルギーを失って 速度が次第に遅くなるので, 円運動の半径 rだんだん小さくなるでしょう. つまり r時間の関数です. ですから,

と考えると,これに (3) 式と (5) 式を 代入して

となります.
 ある時刻に 水素原子の半径が 通常の大きさ R = 0.5 × 10-10 m であったとして, この水素原子が 電磁波を放射して エネルギーを失い, 時間 T の後に半径が 0 となって しまったとしましょう. (7) 式を t積分して この時間 T を求めると

となり, その結果 水素原子は 極めて短い時間内に 1点に収縮して つぶれてしまうことになります. しかし現実には 水素原子は 大変安定で, ひとりでにつぶれてしまう ようなことは ありません.
 このように 古典論 では 有核原子模型困難 を引き起こします.

  「原子のスペクトルに関する困難」
 いろいろな色の光が 合成された光を 色毎に (波長毎に) 分解して 並べたものを スペクトル といいます. プリズムを使って スペクトルを詳しく 観察したのは ニュートン が最初だそうです(1666).
 種々のガスを入れた 放電管 や, 色々な物質の電極の 間に高電圧をかけて 放電 (アーク)させたとき放射される光は, そのガスや物質に特有の 線スペクトル を示します. 次ページ に 例があげて あります.
 それぞれの 原子は決まった波長の 光を出します. しかし,ラザフォードの 原子模型を考え, 古典論に従えば, 原子は線スペクトルではなく, もっと広がった スペクトルを 示すはずです. この点もラザフォードの 原子模型の困難な 点でした.
 原子のスペクトルから 何が見えてくるか, 次ページ以下で 詳しく学びます.

トップ
  第4部目次へ戻る 次ページへ進む