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1-3: シュレーディンガー方程式

 シュレーディンガー (オーストリア: 1887 - 1961) は ド・ブローイの物質波 (ド・ブローイ波) の アイデアに興味を持ち, この波動がどのような 方程式で 記述されるのか 検討した結果, 1つの波動方程式を得ました (1926). これが シュレーディンガーの 波動方程式 です. 通常は単に シュレーディンガー方程式 と呼ばれています.
 シュレーディンガー方程式は, 現在では, ミクロの世界を支配する 革命的な新力学 「量子力学」基本方程式 となりました. それはちょうど, ニュートンの運動方程式が マクロの世界を支配する 古典力学 (ニュートン力学) の 基本方程式であるのと 対比されます.
 シュレーディンガー方程式 を解くことによって, ボーアの量子論の結果も 全て完璧に導くことが できました.そして ミクロの世界の謎が 次々に解決されて 行きました.

  「自由粒子のシュレーディンガー方程式」
 簡単のため 1次元空間 を考えましょう.
 力がまったく 働いていない粒子 (自由粒子) を 考えます. 自由粒子は一定速度で 運動する最も単純な 運動です.
 ミクロの世界では 粒子は 粒子性波動性 とを 兼ね備えた存在である と言いました.
 では,自由粒子の 粒子性どのように表されるでしょう. 速度 v で走っている 質量 m の粒子の 運動量p = mv です. このときの エネルギー

ですから,言うまでもなく Ep との関係は

です.これらの 粒子としての 運動を表現する量 pE が, 粒子性特徴付けています.
 一方,粒子の運動に伴う ド・ブローイ波波長 を λ, 振動数 を ν とすると, これらの λ と ν が 波動性特徴付ける量です.
 上記の粒子性,波動性を 特徴付ける量の間の関係は アインシュタイン - ド・ブローイの関係

です.
 さて,粒子の運動に伴う ド・ブローイ波表す関数(波動関数 と呼びます)を Ψ(x , t ) としましょう. シュレーディンガーは 粒子性の関係式 (1) を 考慮しながら, 波動関数 Ψ(x , t ) の 満たすべき 波動方程式

を提案しました. ただし, プランク定数 h の代わりに それを 2π で割り算した

が使われています. (アルファベットの h に 横棒が付いているので, エッチ・バーと発音します.) 今後もしばしば お目にかかります.
 波動方程式 (3) が 自由粒子 に対する シュレーディンガー 方程式 です. この波動方程式が 考案された理由については, 下に引用する別のページで 少し詳しく説明します.
1-3-A: 「シュレーディンガー方程式の考え方」


  「自由粒子の波動関数」
 シュレーディンガー方程式 (3) の最も簡単な解は

です. これが 自由粒子の波動関数 です.このように シュレーディンガー方程式 の解 すなわち 波動関数 は一般に複素数 となります. これはなんだか変ですね.
 もともと波動関数は ド・ブローイ波を 表すものと考えました. それが複素数というのでは, 一体,波動関数は 何なのでしょう? (3) 式の シュレーディンガー方程式 の中に虚数単位入っているから, その解の波動関数が 複素数になるのは 当然です. それでは シュレーディンガー方程式 (3) が間違っているのでしょうか. いやそうではありません. 実は波動関数には 思いもよらない深い 意味があったのです. そのことは後で 分かります. 波動関数の 「深い意味」については 後で学ぶことにして, 当面,不問にして おきましょう.

  「力が作用している場合の シュレーディンガー方程式」
 自由粒子のエネルギーと 運動量の関係式 (1) と, シュレーディンガー方程式 (3) とを比べると,

と対応しています. つまり,(1) 式において, エネルギー E運動量 p(5) 式のように 微分演算子置き換えて, その結果を波動関数 Ψ に作用 (演算) させると シュレーディンガー方程式 (3) が得られる, という仕組みになっています.
 次に,粒子に 力が働いている場合 を考えましょう.
 力のポテンシャルを V (x ) と しましょう. この場合の エネルギー E運動量 p との関係は エネルギー保存則

です. この関係 (6) に (5) 式の置き換えを 行って, その結果を波動関数 Ψ に作用 させると, 波動方程式

が得られます. これが 力が 作用している場合の 一般的な シュレーディンガー方程式 です.

  「3次元空間における シュレーディンガー方程式」
 現実的な問題に対しては (7) 式の シュレーディンガー方程式を 3次元空間に 拡張しなければなりません. この場合の力のポテンシャルは 座標 ( x, y, z ) の 関数であり, 波動関数は 変数 ( x, y, z, t ) の関数となります.そして シュレーディンガー方程式は

と書かれます.

  「残った難問」
 上に示した シュレーディンガー方程式 をさまざまな系 (例えば水素原子) に 適用し, その結果が 実験データに 見事に一致することが わかり, シュレーディンガー方程式が 「量子力学」基本方程式 であり, ミクロの世界を支配する 基本原理であることが 分かって来ました. 確かにこの基本方程式 を使って ミクロの世界の さまざまな構造が, 見事に説明できましたが, しばらくの間は 波動関数何を意味するのか 明確でなく, 「波動関数の解釈」 という 難問が尾を引くことに なりました.

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