第2部目次
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2-3: 原子によるα 粒子の散乱

   前ページまでで 明らかになった 原子の性質 をまとめておきましょう.
  (1) 原子の半径ほぼ 1Å = 0.1 nm = 10-10 m の程度です.
  (2) 原子全体に比べて はるかに軽く マイナスの電荷 -e (e = 電気素量) を持つ 電子 を含んでいます. 電子の個数原子量の約半分です.
  (3) 原子は電気的に 中性です. したがって, 電子のマイナス電荷を 打ち消す 同量のプラス電荷を 持つ「ある物」原子の中に存在 するはずです. この「ある物」が 原子の質量ほとんど全てを 荷っていると 思われます.
   このような原子の内部は どうなっているのでしょう. 目に見えない原子の内部構造を 調べるためには, 何か適当な物を ぶっつけて反応を 見るのがよいと思われました. それには,ウラニウムや ラジウムのような 放射性物質から出てくる α 線 が適当ではないでしょうか.

  α 線 の正体」
 原子にα 線をぶっつける前に, α 線の正体を知らなくては なりません.
 α 線は, ウラニウムやラジウム などから高速で 放出されるプラスに帯電した 放射線で, α 粒子の集まり (束) であると考えられました.
 まず α 線の進路を電場および 磁場の中で曲げて, 比電荷 Q/M を測定しました. (Q は電荷, M は質量.) その結果, α 粒子の比電荷は 水素イオンの比電荷の 1/2 でした. このときの測定法は 1-7-A の 電子の比電荷の測定法 と同様です. ただし,電子はマイナスに, α 粒子はプラスに 帯電していることに 注意してください.
 また α 粒子の電荷を 測定します. まず,下図 (A) のような 装置で,α 線源から 単位時間に 単位立体角あたり 何個のα 粒子が 放出されるか, その個数を計測します. 検出器には シンチレーション が使われます. すなわち, 検出器の窓に張られた 蛍光物質の発光の 個数を数えるわけです.

 
   次に, 上図 (B) のような 装置で,同じα 線源から 単位時間内に 放射される全電荷を 測定し,α 粒子の個数 で割れば,α 粒子1個 当たりの電荷が 得られます. このようにして
α 粒子の電荷 = +2e (e = 電気素量)
であることがわかりました. したがって,α 粒子は ヘリウム原子が 2個の電子を失った ヘリウム・イオン ではないかと 推定されました.
 この推定が正しいことは ラザフォード (イギリス: 1871 - 1937) とロイドによって 確かめられました(1908). そのとき使われた 実験装置の概略は 下図の通りです.

 

   真空のガラス容器 B の中の A の位置に, 非常に薄いガラス管内に 放射性物質 (気体) が 水銀 M 2圧力をかけて 封入されて置かれています. 放射性物質 から放射されたα 粒子は 薄いガラス管を 透過して,外側の ガラス容器 Bたまります. 数日間放置した後, 水銀容器 M 1引き上げて, B 内にたまった 気体を最上部の 細い管 V導き,電極に電圧をかけて 放電させ, スペクトルを 観測したところ, ヘリウムと同じ スペクトルが 得られ, B 内にたまった 気体はヘリウム・ガス であることが 確認されました.
 つまり,A から B へ出てきた α 粒子は 周囲から 2個の電子を捕獲して ヘリウム原子に なったわけです. このようにして, α 粒子は2価のヘリウム・イオン である ことが 確認されました.

   念のため, ガラス管 A の中の放射性ガスの 代わりに, ヘリウム・ガスを入れてみました. このときには, 数日放置しておいても 外側のガラス容器 B 内には ヘリウムは現れませんでした. つまり,ガラス管 A の薄い壁を α 線は通すけれども, ヘリウム・ガスは通しません. なぜか考えてみましょう.

 
  「原子によるα 線の散乱」
 原子にα 線を衝突させる 実験は,ラザフォードの 指導のもとに,彼の 研究室で行われました. ガイガー (ドイツ: 1882 - 1945) と マースデン (イギリス) は,ラジウムから放出される α 粒子を薄い金属箔にあて, その影響をしらべる 実験を行いました(1909). 実験の概要は 下図 (A)実験装置は 下図 (B) の通りです.

 

 


   上図 において, 真空の散乱槽 の中で α 線源 R から出た 高速のα 粒子は, 中央の金属箔 F に当たり,いろいろな 角度に散乱されます. これを蛍光物質 S を前面に置いた 顕微鏡 M で 観測します. α 粒子が S にあたったときの シンチレーション (発光) を顕微鏡で 観測するわけです. これにより, どの角度に何個の 割合で散乱されるか 計測できます.
 ガイガーとマースデンの 実験の結果, 衝突したα 粒子の 大部分はまっすぐ 前方に直進しますが, ごくたまに 90°以上にもなる 大きな角度に 散乱されるα 粒子が あることが わかりました.
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