研究

Research

スピン双極子共鳴に対するテンソル相関の影響

原子核物理におけるホットな話題の1つとして、Shell Evolutionをはじめとする原子核構造に対するテンソル力の効果が挙げられます。 我々は、このテンソル力が励起状態、特に集団性の高い巨大共鳴のような励起モードに対してどのような影響を及ぼしているのかに興味を持っています。 巨大共鳴の代表的なものに、中性子と陽子が逆位相で並進運動(軌道角運動量$L=1$)する双極子巨大共鳴(GDR)があり、そのスピン・パリティは Jπ=1-です(基底状態が0+の場合)。 更に、スピン自由度が結合したモードがスピン双極子共鳴(SDR)と呼ばれるもので、そのJπは0-,1-,2-と3種類存在します。 この共鳴は、スピン上向きの中性子とスピン下向きの陽子(あるいはその逆)が逆位相で並進運動している状態として理解されます。 テンソル力の効果はJπに強く依存し、例えば三重偶(TE)の項は1-に対しては引力的な、0-に対しては斥力的な相関を与える事が期待されます。 したがって、SDRをそのJπを分離して同定することが重要となります。

SDRは、(p,n)反応をはじめとする中間エネルギー(核子あたり100 MeV以上)の荷電交換反応で励起されます。 断面積がL毎に特徴的な角度分布を取ることを用いて、L=1のSDRが抽出されています。 しかしながら、同じ$L$を持つ状態の角度分布は似ているため、この方法では同じL=1を持つJπ=0-,1-,2-の3つの状態を区別することが出来ません。 そこで我々は、入射陽子と出射中性子のスピンを測定し、そこから得られる偏極移行量と呼ばれる量(陽子と中性子のスピンの相関)がJπに非常に敏感であることに着目しました。

上図が208Pb(p,n)反応の偏極移行量の情報を用いて、断面積をJπ毎に分離した結果です。 アイソバリック・アナログ状態(0+)、ガモフ・テラー状態(1+)、SDR(0-,1-,2-)等が綺麗に分離・同定されています。 SDRの断面積から、遷移強度に変換して理論計算と比較したのが下図です。 実線がテンソル力を考慮しない計算で、1-の励起エネルギーを過大評価しています。 これに対して、破線、点線、一点鎖線がテンソル力を考慮した計算です。 主にTEのテンソル力により、1-の励起エネルギーを概ね再現しています。 計算結果の違いは主に、三重奇(TO)のテンソル力の違いに対応します。 一点鎖線の計算が0-の励起エネルギーをより良く再現していますが、これはTOのテンソル力が正(〜200 MeV fm5)で引力的であることを意味しています。 このように、SDRの励起エネルギーはテンソル力に敏感であるため、テンソル力の大きさを実験的に決めるのに極めて有効であることが分かります。

左図:208Pb(p,n)の断面積をJπ毎に分離した結果。 右図:208Pbのスピン双極子励起強度。