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1-6: 電気素量の発見

   19世紀の初頭, 電気分解実験がさかんに行われました. 例えば, 水を電気分解すれば 酸素と水素が発生すること がわかりました.
 電気分解とは, 下図のように, 電解槽 (電解質溶液を入れた容器) に浸した2つの電極間に 電流を流すと, 電解質が陽イオン(カチオン) と陰イオン(アニオン) に分解し, 陰イオンがプラス電極に, 陽イオンがマイナス電極に 引き付けられて析出 する現象です.


「ファラデーの電気分解の法則」
 ファラデー (イギリス: 1791 - 1867) は 電気分解に関して いろいろな実験を 繰り返し, 「電気分解によって電極に 析出する物質の量は 流れた電気量に比例し, 同一の電気量によって 生成する物質の質量は その物質の化学当量 (原子量をその 原子価で割った値) に比例する」, という 電気分解の法則 を発見しました (1833).

  「原子価」
 ある元素の原子1個が, 他の元素の原子何個 と結合するかをあらわす数 原子価 といいます. つまり, それぞれの原子が 結合する「手」を 何本もっているか ということです.
 水素は「手」を1本, 酸素は「手」を2本 持っていて, 酸素1個が水素2個と 結合し, 「両手に花」 となって水ができます. 従って, 水素の原子価は1, 酸素は2です.

  「電気分解から見た電気素量」
 いま, 電気分解において, 析出する元素の質量 M, その原子量 A, 原子価 v, 流れた電気量 Q とし ましょう. つまりQこの電気分解において 運ばれた全電気量です. M は電気量Q と化学当量A/v とに比例するから,

となります. 1/F は比例定数です.
 さて, この電気分解を 原子説 の立場で 考えましょう. 1つの原子が運ぶことのできる 電気量は, その原子の「手」の数, すなわち 原子価 v に比例する と考えましょう. 1つの「手」が 運ぶ電気量を 電気の単位q とすれば, 1個の原子が 運ぶ電気量は vq と考えるわけです.
 いま 1 モルの元素が 析出される場合を考えると, その中にはアボガドロ定数 NA だけの個数の原子があり, 運ばれる電気量は Q = NA x vq です. またこのとき M = A ですから, 上の式から

が得られます.
 Fファラデー定数 と呼ばれ, 実験の結果 その値は
F = 96500 C (クーロン)/グラム当量
です. つまり, 元素の 1 グラム当量 を電気分解で 生成するために 必要とされる 電気量が 96500 C (クーロン) であることを意味します. (1 グラム当量とは 化学当量だけのグラム数の 質量です.水素なら 1 グラムです. 上の図の硫酸銅の 電気分解の場合は, 銅の原子価は 2, 原子量は 63 ですから, 銅 31.5 グラムが 1 グラム当量です.)
 以上の結果から, 電気分解における 電気量の 最小単位

となります. これがミクロの世界における 電気素量 (電気の基本単位: 素電荷ともいう) であることが 分かってきました.

  「ミリカンの実験」
 ファラデーの電気分解の法則 の発見から 約 80 年後の 1909年, 物理的な方法で 電気素量 の精密な測定が ミリカン (アメリカ: 1868 - 1953) によってなされました.
 ミリカンの実験装置は 下図の通りです.




 細かい 油滴霧吹きによって 極板間の空気中に 散布されます. 水滴ではなく 油滴を使った理由は, 蒸発によって 液滴がすぐに無くなる ことを防ぐためです. ふつう霧吹きの過程で 油滴はじゅうぶん帯電しますが, 帯電が足りない場合は X 線を当てます.
 顕微鏡で観察するのに ふさわしくない 大きい油滴は 視野から早く落下して, 都合の良い大きさの 油滴のみが残ります. 極板間には空気があります ので, 油滴には 重力と空気の粘性抵抗 が働き, 油滴は一定の速さで ゆっくり落下します. この速度を顕微鏡で 観察して測ります. また, 極板間に電圧Eかけると, 帯電した 油滴に上向きに力が 働き, その落下速度は 変化します. たくさんの油滴について 電圧E を変化させたりして 何度も観測を繰り返します.
 ミリカンは これらの観測結果から 油滴の電荷を測定し, それらが最小の電荷e 整数倍 になっていることを 発見し, その値は 電気分解で測定した 電気素量の 値によく一致していました. この結果, 電気量の 基本単位電気素量 (素電荷) e であることが分かりました.

 現在では 電気素量 e の値は精密に測定されて,
e = 1.60217733(49) x 10-19 C (クーロン)
という値が えられています.

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