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2-6: 原子核とは何か

   前ページで説明したように, ラザフォードの原子模型 の成功 によって, 原子はプラス電気を 持った 原子核 と, その回りを とりまいて運動する 電子 とで構成されている ということが 明らかになってきました.
 原子には Z 個の 電子が含まれ, これらは 全部で -Ze の電荷を 持っています. 原子核には, 電子の マイナス電気を 打ち消す +Ze の電荷が 集中 していると 考えられます.
 これまでの ページで詳しく 説明したように, 原子全体の質量に比べて, 電子の質量は桁違いに 小さいことがわかっています. したがって, 原子核が原子全体の質量 のほとんど全てを 担っていると 考えられます.
 それでは, 原子核は 何から, どのように, 構成されている のでしょうか.

  「原子核の大きさ」
 ラザフォード散乱の角度分布 の公式は, 原子核の +Ze の電荷が1点に集中した 点電荷 であるという 仮定のもとに導かれました. しかし, 電荷の分布が多少 広がっていても, (2-5-A) のページ で説明した 最小の 最近接距離 以下であれば, ラザフォードの公式は 成り立つはずです. したがって, 実験データが ラザフォードの公式 によく合致していれば, そのときの原子核の 大きさ (半径) は 最小の最近接距離 よりも小さいと 判断されます.
 もう一度 ラザフォード散乱の 軌道を眺めてみましょう (下図左). 赤の矢印示した距離が 最小の最近接距離 です.

 

 薄い箔に ラジウムからの α 線を 当てたときの散乱の 実験においては, 散乱角 θ が 180°近くまで ラザフォードの公式が 実験結果に よく合っていました. このときの α 粒子のエネルギーは E = 5.3 MeV です. 銅は Z = 29 です. α 粒子が原子核に 正面衝突する場合に 原子核に最も 近づきます. そのときの 最近接距離

となります. この結果, 銅の原子核の 大きさは 1.6 x 10-14 m より小さい と考えられます. 原子の大きさが 10-10 m であることと比べると, 原子核の大きさは 約1/5000以下 です. 原子核が いかに小さいかが わかります.

    「原子核の人工変換,陽子」
 1919年, ラザフォードは 窒素酸素人工的に変換することに 成功しました.
 原子によるα 線の 散乱実験の一環として, 下図 のように 窒素ガスの中に 放射性物質を置き 蛍光物質上の シンチレーション (発光) を調べたところ, ときどき α 粒子とは考えられない 方向に 非常に明るい 発光を観測しました.



 その後, 同様な現象は ホウ素, フッ素, ネオン, ナトリウム, 燐, 硫黄, アルゴン, 等々 数多くの元素で 見つかりました. これは, 高速のα 粒子が これらの原子の原子核に 衝突して, 何か「不明の」 高エネルギーの 荷電粒子飛び出すと 考えられました.
 この現象を ウィルソンの霧箱 (きりばこ) で 写真に撮影することにも 成功しました. 霧箱を磁場中に 置くなどして 精密に解析した結果, この「不明の」 粒子は 水素イオン と同じ物であることが わかりました. 水素原子は 原子核と1個の電子から できていますから, 水素原子から 電子が1個剥ぎ取られた 水素イオンは, 水素の原子核, すなわち 陽子 (proton) です.
 このラザフォードの 実験は,
(窒素の原子核) + (ヘリウムの原子核) → (酸素の原子核) + 陽子
という 人工原子核変換 を行ったことを 意味します. つまり, 窒素の元素を 酸素の元素に 人工的に 変換したことになります.

  「原子核の構成要素」
 このようにして 陽子原子核の構成要素の 1つ であることが わかりました. しかし原子核が 陽子だけでできている かどうかはわかりません. 例えば前に議論したように, ヘリウムの原子核は α 粒子です. その質量は水素イオン (陽子) の約4倍ですが, 電荷は2倍の +2e です. ヘリウムの原子核 (α 粒子) は 4個の陽子と2個の電子が 集まってできている と考えると, 一見よさそうです. このように,初期の頃は, 原子核は陽子と電子で 構成されていると 考えられましたが, これでは矛盾が 起きることが 明らかになりました.
 原子核の構成要素が 明らかになるのは, 1932年の チャドウィック (イギリス: 1891 - 1974) による 中性子 の発見 を待たなければ なりませんでした.

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