第3部目次
次ページ
3-1: 熱とは何か


   物体を熱すると 温度が高くなり, 温度の高い物体と 低い物体とを接触させておくと, 高いほうから低いほうへ が移動して 双方の温度が等しくなる ということは 誰でも知っています. このとき移動した とは何でしょう.
 今ではこの 熱の伝達エネルギーの移動 である ということは よく知られています. つまり エネルギー1形態です. このことは どのようにして 説明できるのでしょう. この問題こそ ミクロの世界マクロの世界結びつける 鍵だったのです.

  「フロギストン説」, 「カロリック説」
 19世紀の初めまで, 物体の燃焼は, 目に見えない, しかもマイナスの 質量をもつ フロギストン (燃素) というものを仮定して 説明されていました. これによると, 全ての燃える物体は フロギストン を含んでいて, 物が燃えるのは その中に含まれていた フロギストンを 失う過程であると 説明されていました. たとえば,水銀のような 物質は,燃えると重くなるので フロギストンは マイナスの質量を持つ と考えられたわけです.
 また, 熱の伝達は, 重さがゼロの 目に見えない カロリック (熱素) という流体が 移動する現象であると 説明されていました.
 ラボワジェ (フランス: 1734 - 94) は 精密な定量的化学実験を 行って, 物が 燃焼 するのは 物質と物質とが 化合する過程である ということを確かめ, フロギストン説を 否定 しました. また, 熱は摩擦によって 限りなく作り出すことが できるという ランフォード の実験などによって, カロリック説も 否定 されました.

  「熱の本性」
 ジュール (イギリス: 1818 - 89) は 下の図 のような 実験装置を用いて エネルギー同等であることを確かめ, 熱と力学的エネルギー との間の関係,すなわち 熱の仕事当量測定しました(1845).
 現在では, 精密な測定の結果,
1 cal (カロリー) = 4.1855 J
であることが わかっています.
  ジュールの実験装置
分銅が下がって タンクの水中の 羽根車をまわします. 分銅の位置エネルギーは 羽根車の回転の 運動エネルギーとなり, そのエネルギーを もらった水は 温められて 温度が上がります.


  「統計力学」
 第1部で学んだように, 物質は多数の分子や原子が 集まってできていることが 明らかになりました. 最初は, これらの分子や原子は 古典論 の法則, すなわち ニュートン力学マクスウェルの電磁気学したがって運動していると 考えられました. ミクロの世界分子や原子の運動を 目で見ることは できませんが, 物質を構成する 分子や原子の 個数が非常に多いので, ある種の 統計的平均値求めることによって, 分子や原子の運動を 圧力 とか 温度 とかいった マクロの世界物理量 に関連付ける ことが可能です.
 たとえば,気体の圧力は 気体分子が容器の 壁に衝突して 壁におよぼす力の 平均値です. また温度は多数の分子の エネルギーの 平均値です.
 このように, 個々の分子や原子の 自由度 から, マクロの世界の いろいろな法則を 説明しようとする 理論が マクスウェル (イギリス: 1831 - 79) や ボルツマン (ドイツ: 1844 - 1906) によって発展させられた 古典統計力学 です. 次のページで その考え方を 説明しましょう.

トップ
  第3部目次へ戻る 次ページへ進む