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1-2: 波動についての "おさらい"

   シュレーディンガーの 波動力学について 勉強する前に, ちょっとだけ 波動について おさらいしておきましょう.

  「簡単な波動」
 簡単のため しばらくの間 1次元空間 を考えましょう. 例えば,ギターや 琴のような 弦の中を伝わる振動を 考えるわけです. 弦の振動の大きさ F下図 のように 位置 (x ) と 時刻 (t ) との 関数 F (x, t ) です.
  この図には 右方向に進行する 正弦波 (最も簡単な波動)

が描かれています. 実線 の波は 時刻が t = 0 のとき, 破線はそれより 少し後の時刻の波です. この波の波長を λ, 振動数を ν とすると,

です. k波数ω は 角振動数 と呼ばれます. また,波が進行する 速度 c

となります.

  「通常の波動方程式」
 弦の中を伝わる波動 F (x, t ) が従う 波動方程式

と書かれることは よく知られています. 記号 ∂ は 偏微分意味します. 偏微分は, F (x, t ) のように変数が2つ以上ある 関数の,特定の変数 のみに関する 変化率を意味します. 例えば, F /∂t x を固定したまま Ft微分することを意味します. 他方, F /∂x t を固定したままで x微分するわけです.
 (4) 式の中の定数 c波の進行速度で,弦の線密度や 弦の張力に依存します.
 (1) 式の正弦波が (4) 式の波動方程式を 満たすことは 言うまでもありません. つまり,正弦波 (1) は 波動方程式 (4) の 特別な解です.

   上の (4) 式は 弦という1次元空間中を伝わる振動の 波動方程式です. 3次元空間 の場合, たとえば 空気中の波動(音波)や, 真空中の電場や磁場 すなわち電磁波 (光) の 場合には,3次元の座標 (xy, z ) が必要です. したがって, この場合の波動 F は 4つの変数 xy, z t の関数 F (xy, z, t ) となり, このときの波動方程式は

となります. 定数 c は, 音波のときは 音速電磁波 (光) のときは 光速 です.

  「重ね合わせの原理」
 (4) 式の波動方程式は たいへん一般的な形ですから, これだけでは波の形 (波形) を決めることはできません. 例えば,時刻が t = 0 のときの波形 (初期条件) が 与えられると,その後の 波の動きは (4) 式の波動方程式 で決めることができます.
 しかし,波動方程式には 波動 という性質に とって欠くべからざる 大変大事な性質があります. それは 重ね合わせの原理 です.下で詳しく 説明しましょう.
 いま,関数 F (x, t ) が (4) 式の波動方程式を満たす 波動であるとしましょう. 同じく別の関数 G (x, t ) が 同じ波動方程式を満たす 別の波動であるとしましょう. すなわち,

です. このとき, これら2つの波動をたし算した 重ね合わせたF + G もまた同じ 波動方程式を満たす 波動です.つまり,

が成り立ちます.
 つまり, 「同一の波動方程式を 満たす複数の波動を たし算して重ね合わせたものも, やはり同じ 波動方程式を満たす 波動である」 という 重ね合わせの原理 が成り立ちます.

  例1 (定在波)
 右方向に進行する 正弦波

も,左方向に進行する 正弦波

も,ともに 弦の波動方程式 (4) を 満たします. したがって,これらを 重ね合わせた波

も, 弦の波動方程式 (4) を 満たします. この波は左右どちらにも 進行しない 定在波 です. 両端を固定した 弦の振動は この種の波です (下図参照).

  長さ L の弦の固有振動
両端の固定点が 常に振動の 0 点と なるために, 波長λが 2L2L/2, 2L/3, ・・・ の 固有振動のみが 可能です.

  例2 (干渉)
 波数(あるいは波長)が 異なる2つの正弦波

を重ね合わせると, 2つの波が, 位置によって, 強め合ったり 弱め合ったりします. これが 干渉 です (下図参照). 干渉が起きるということは, 重ねあわせの原理が 成り立つということを 意味し, 波動性表れであると 考えられます.

  2つの正弦波の干渉
波長が少し異なる 2つの正弦波 @ と A を 重ね合わせたものが B の太い 実線 です. 干渉現象が起きています.

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