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1-1: ボーアの量子論 と ド・ブローイ波

  「ボーアの量子論」
 「ミクロの世界」−その1− の中の 第4部 第3ページ において, 古典論では 説明が困難であった 原子の構造が, ボーアの原子構造論 によって 見事に 統一的に説明できる ようになったことを 学びました. この理論は ボーアの量子論 とか 前期量子論 とも 呼ばれています.
 ボーアの量子論の要点を 簡単にまとめておきましょう.
  (1) 原子は, 重い原子核の周囲を 軽い電子が取りまいている という ラザフォードの有核原子模型 で表されるものとします 下図参照). 原子核の周囲の電子は 古典論 (ニュートン力学と マクスウェルの電磁気学) に従って運動している と考えます.
  (2) 上の 有核原子模型だけでは 困難が生じるので, これに ボーアの量子論の 3つの条件 (仮説) が 加えられます. すなわち, 定常状態の仮説 振動数条件 量子条件 です.
  ラザフォードの有核原子模型
中心の黒いかたまりが 原子核 です. 電子 (赤い点) は 原子核の回りを 取り巻いて運動しています. 原子の半径は 1Å (= 0.1 nm) の程度であるのに対し, 原子核の半径は その 1/10000 以下 と考えられます.
   このボーアの量子論 によって, 原子の構造, 特に 水素原子のエネルギー, 大きさ, 安定性, スペクトル などを含む構造が, 見事に説明できるように なりました.


「ド・ブローイ波」
 光の粒子性 (光子) の発見により, 従来 波動考えられていた光が, 粒子 の性質を 持つことが 分かりました. それならば, これまで粒子と 考えられていた 電子波動 の性質を 持つかもしれない,と ド・ブローイ (フランス: 1892 - 1987) は考えました (1923). これが, ド・ブローイ波または ド・ブローイの物質波アイデアです.
 光の場合, 光の振動数 ν や 波長 λ と, 光子のエネルギー E運動量 p とを 結びつける アインシュタインの関係
  が 成り立ちます. この関係が ド・ブローイ波 に対しても 成り立つのではないか, と ド・ブローイ は 考えました. したがって,上の (1) 式の関係は しばしば アインシュタイン- ド・ブローイの関係 と呼ばれます.

  「ド・ブローイ波の実証」
 電子の運動に伴って ド・ブローイ波が存在し, その波動が アインシュタイン- ド・ブローイの関係 を満たすということは, デビスン (アメリカ: 1881 - 1958) と ジャーマー (アメリカ: 1896 - 1971) および, G. P. トムソン (イギリス: 1892 - 1975) によって実験的に 確かめられました (1927). (「ミクロの世界」−その1− の 第4部 第4ページ にあげた 結晶による電子線の回折像 を参照してください.)
 さらに, シュテルン (ドイツ,アメリカ: 1888 - 1969) は ヘリウム原子 や 水素分子を 結晶に照射し, その反射波がつくる 干渉じま(縞)を 観測し, そのしま (縞) の 間隔が アインシュタイン- ド・ブローイの関係に ぴったり合致する ということを 確認し, 電子だけではなく 一般の物質粒子に 伴うド・ブローイ波を 実証しました (1929).

  「ボーアの量子条件 と ド・ブローイ波」
 ボーアの量子論 で 水素原子を考えましょう.
 このときの 量子条件 (定常状態 を決定する条件) は, 原子核の周囲の 電子の軌道の長さ (円周)が ド・ブローイ波の 波長の 整数倍 でなければならない, という条件と 同等であることを,既に 「ミクロの世界」−その1− の 第4部 第4ページ で学びました (下図参照)
  ボーアの量子条件 (定常状態の条件)
軌道の円周が ド・ブローイ波の 波長の整数倍でないと, 波が滑らかに つながらず, 連続な定在波 ができません.
   言い換えれば, 原子核の周囲の 電子の運動に伴う ド・ブローイ波が 「滑らかにつながった 定在波となる」 ということが, 定常状態の条件である と考えられます.
 つまり,ボーアの量子論 における量子条件 (定常状態の条件) は, 滑らかにつながった 連続な ド・ブローイ波を 考えれば 自然に理解する ことができます.

   このように考えると, ド・ブローイ波ボーアの量子論の 背後にあって, より 本質的な役割 を担っているように 思われます. したがって, ド・ブローイ波の 本格的な理論が 建設され, ボーアの原子構造論は その理論から 必然的に導き出されるような, そのような根本的な 理論が望まれます. 次ページ以降で 学ぶ シュレーディンガー の波動力学 ( = 量子力学) こそ 目標とする 理論なのです.
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