第1部目次
前ページ
次ページ
1-5: 波動関数の意味

   前々ページの 1-3: シュレーディンガー方程式 で学んだように, 量子力学の 基本方程式は シュレーディンガー 方程式 です. これは,古典力学の エネルギーと 運動量との関係式と 矛盾しない形の 波動方程式として 導入されました. その結果, ド・ブローイ波を 表すと考えられる 波動関数 Ψ(x , t ) が複素数になってしまいます. 複素数の物理量は 考えられません. 一体,波動関数は 何を意味するのでしょう.
 波動関数の解釈 については, 色々な考えが提案されました. 中でも ボルン (ドイツ,イギリス: 1882 - 1970) によって提案された 確率解釈 (統計的解釈) が 矛盾が無くて, 今では最も正統的な解釈とされ, この考え方に基づいて 量子力学全ての理論が 組み立てられています.

  「波動関数の確率解釈」
 下図 のように 3次元空間の中で,座標 (x , y , ) の点の近傍の3辺の長さが dx , dy , dz微小体積 (直方体) dV = dx dy dz を考えます. 時刻 t において, この微小体積の中に 粒子が見出される確率 すなわち 粒子の "存在確率"P (x , y , z , t ) dx dy dz としましょう. P (x , y , z , t ) は 点 (x , y , ) の近傍の単位体積あたりの 確率ですから, しばしば確率密度 と呼ばれます.
  [注意]
 上で 粒子の "存在確率" という言葉を用いました. しかし,これは,例えば電子が 常に 粒子 の形で, 粒子 の姿をして存在し, ただその運動が 確率的である, ということを 意味するものでは ありません. 電子はあくまで 「粒子」 と 「波動」 の 両方の性質をもった 存在であり, 「粒子」だけの性質 を持つわけでは ありません. ここで言う "存在確率" とは, 「粒子」を観測したとき 見出される確率 を意味します. 誤解を避けるため "引用符"囲んでおきます.

 
 ボルンの確率解釈は, 「粒子の "存在確率"の 確率密度は 波動関数の 絶対値の2乗に等しい」 と主張しています. すなわち,上図微小体積 dV 内に粒子が見出される確率は

であると考えます. 波動関数 Ψ(x , y , z , t ) そのものは 一般には 複素数の値ですが, その絶対値の2乗を とりますから, "存在確率"は常に 正 (または 0) となって,困ることは 起きません.

  「波動関数の規格化」
   任意の時刻 t において, 粒子は空間のどこかに 存在するはずですから, (1) 式の 粒子の "存在確率"を 全空間にわたって 積分すると, すなわち全確率を 計算すると, 100% になるはずです. つまり 波動関数 Ψ(x , y , z , t ) は 規格化の条件

を満たすように なっていなければ なりません.単に シュレーディンガー方程式 の解を求めただけでは 規格化の条件 (2) を 満たしているとは 限りません.
 シュレーディンガー方程式の ある1つの解 Φ(x , y , z , t ) に,0 でない 任意の定数 C掛け算した Ψ = C Φ も 同じ シュレーディンガー方程式の 解ですから, この定数 Cうまく調整すれば, 結果の波動関数 Ψ が (2) 式を満たすようにすることが できます. この操作を 波動関数の規格化 と呼び,掛けるべき 定数 C規格化定数 と呼びます. 規格化定数が

と書かれることは 容易にわかります.
   古典論では ニュートンの運動方程式 によって 粒子の軌道や運動量を, すべての時間にわたって 決定することが できました. ところが 量子力学の 基本方程式である シュレーディンガー 方程式が決定するのは 波動関数 です. そして波動関数から わかるのは 粒子の "存在確率" です. 何だか物足りないような 感じがしますが, ミクロの世界を 記述するには これで必要かつ十分 なのです. 前ページで学んだ ハイゼンベルクの 不確定性原理照らし合わせて, ぴったり整合してるのです. このことは,このセミナー を通じて,だんだんと 分かってくるだろうと 思います.
 ボルンの確率解釈の正しさを 実験的に検証する 典型的な例が 次々ページに 示されます.

トップ
  第1部目次へ戻る 前ページへ戻る 次ページへ進む