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3-1: エネルギー固有値,固有状態


   本セミナーの 「ミクロの世界」−その1− 第4部 第3ページボーアの量子論 によって, 原子の構造は 見事に 統一的に説明できる ことを 学びました. そこでは, 原子は, 飛び飛び の値のエネルギー を持った 定常状態 でのみ存在することができ, 許される定常状態は ボーアの 量子条件 によって選ばれると 仮定されました. この 前期量子論 によって, 水素原子の構造が 大変うまく説明できることが 明らかになりました.
 それでは, シュレーディンガー方程式 を主柱とする 量子力学 から, はたしてボーアの量子論 が出てくるでしょうか. シュレーディンガー方程式は, 飛び飛びの値のエネルギー を持った 定常状態を 導き出してくれるでしょうか.

  「束縛状態 の エネルギー固有値」
 すでに 1-6 ページ において,バネ の振動 を 量子力学で扱うと, 飛び飛びの エネルギー固有値 をもった 固有状態が得られる ことを学びました.
 このような 飛び飛びの エネルギーの 固有状態は, バネの振動に 限りません. 一般に,量子力学において 束縛状態 と言われる 状態に 共通の性質であり, 古典論には 決してありえない 特徴です.どこにそのような 特徴の由来があるか 少し説明しましょう.
 1次元空間において, 下の 図 (A) のような 「井戸型」のポテンシャル を考えます.

 この「井戸型」ポテンシャル V (x ) によって 力を受けて運動する 質量 m の粒子の従う シュレーディンガー 方程式は,

です.
 いま,粒子が 「井戸型」ポテンシャル につかまって 束縛 されて いる状態を 考えましょう. 図 (A) からわかるように, その状態のエネルギー E は,

のはずです. このとき, ポテンシャルが V (x ) = 0 となる 遠方の領域 における 波動関数の様子を 見てみましょう. この領域で シュレーディンガー 方程式 (1) は

と書き直すことができます. したがって, V (x ) = 0 の領域における 波動関数の 一般解

となります. ここで, A, B 任意の定数です.
 波動関数の絶対値の 2乗が粒子の"存在確率" の 確率密度 ですから, 一般に波動関数は 空間のどこにおいても 発散する (±∞ となる) ことは 許されません. したがって, (4) 式の波動関数は, 右遠方 (x = + ∞) で A = 0, 左遠方 (x = - ∞) で B = 0 でなければ なりません.すなわち, 遠方の V (x ) = 0 の領域の 波動関数は

となります.
 このように,波動関数が遠方 x = ±∞ において 発散しないという 境界条件 を満たすためには, エネルギー E何でもよいというわけには 行きません. ある特定の値でなければ なりません. そのような値を エネルギー固有値 といい,それらは 飛び飛び の値となります. このような飛び飛びの 固有値を 離散的固有値 といい, エネルギーが離散的である ことを 「エネルギーが 量子化 されている」 とも言います. また,それぞれの エネルギー固有値 に対応する状態を 固有状態 と呼びます. これらの状態の 波動関数は 遠方で 0 となり, その大部分は ポテンシャルの領域に つかまって (局在化されて) いますから, 束縛状態呼ばれています. したがって, 束縛状態の固有値は 必ず離散的 となります.
 エネルギー固有値や 対応する波動関数 (固有関数 とも呼ばれます) は, (1) 式の シュレーディンガー 方程式を (5) 式の境界条件を 付けながら解くことに よって求められます. その例を下に 図示しましょう. 計算の方法についての 詳細は別の 量子力学に関する 参考書を参照して下さい. (例えば,高田健次郎著, 「量子力学 I」 朝倉書店).

  井戸型ポテンシャルの固有状態
シュレーディンガー 方程式 (1) を解いて 得られた エネルギー固有値 (水平の線), および対応する 波動関数 (太い実曲線).
「黄色」 の 部分は ポテンシャルの壁です.
束縛状態が いくつ可能であるかは a 2V0 の値によります.


  調和振動子の固有状態
シュレーディンガー 方程式 (1) を解いて 得られた エネルギー固有値 (水平の線), および対応する 波動関数 (太い実曲線).
「黄色」 の 部分は ポテンシャルの壁です.
調和振動子の エネルギー固有値は, 基底状態 (0) から測って を単位として, その整数倍と なっています. これが調和振動子の 著しい特徴です.


  「飛び飛びのエネルギー固有値の原因」
 注目すべきは, 飛び飛びの (離散的な) エネルギー を持つ固有状態が 出てくる原因です. それは粒子が 波動関数を 伴うからです. 粒子が 粒子性波動性二重の性質を持つからこそ 飛び飛びのエネルギー を持つ固有状態が 現れるのです. これは古典論からは 決して得られない 驚くべき結果です.

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