第3部目次
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3-2: 水素原子の構造

   ラザフォードの 有核原子模型によると, 水素原子 は,中心に 重い 陽子 があり, その周囲を1個の 電子回転運動をしていると 考えられます. 陽子は電子に比べて 約1800倍重いので, 座標原点に 静止していると考えて よいでしょう.
 陽子と電子の間には クーロンの引力働いています. そのポテンシャルは, 原点から電子までの 距離を r とすると,

と書かれます. 電子の運動を記述する シュレーディンガー 方程式

です. 言うまでもなく, 波動関数 ψ は 変数 x , y , z の関数です. この場合,直角座標 ( x , y , z ) を使うより,下図 に示す 極座標 ( r , θ, φ) の方が 便利です.


  「水素原子の固有状態」
 (1) 式の シュレーディンガー 方程式を 極座標 ( r , θ, φ) で表し, 波動関数が 空間のいたるところで 滑らかな 連続関数で,無限遠方 r = ∞ で 0 に収束するという 境界条件付けて解くと, 前ページで学んだように, 離散的エネルギー固有値 を持った 固有状態得られます. その詳しい計算法等についての 説明は,ここでは 割愛し,結果のみを 説明しましょう. すすんで勉強をしたい方は, 別の量子力学の 参考書を参照して下さい. (例えば,高田健次郎著, 「量子力学 I」 朝倉書店).
 このようにして得られた 水素原子の固有状態波動関数

と書くことができます.
 R ( r ) の部分は 動径波動関数 と呼ばれ,整数 n , l で特徴付けられます. このように,状態を 特徴付ける「数」を しばしば 量子数 といいます. ただし,

です. また, Y (θ,φ) の部分は 角度波動関数 であり, 整数 l , m で特徴付けられます. ただし,

です.
 角度波動関数は, 電子の原点の回りでの 回転の状態 を記述しています. すなわち,量子数 l は電子の回転の速さ, つまり 角運動量大きさを表し,量子数 m はその角運動量が どの方向を向いているか, 言い換えれば どの方向に回転しているかを 示しています. これらの量子数が, (3),(4) 式のように 整数であるということは, 角運動量の大きさ方向飛び飛び であることを 意味します.
 量子力学では エネルギーだけでなく, 角運動量の大きさ も, さらに 角運動量の方向 までも, 量子化 されて いるのです. このことは シュテルン・ゲルラッハ の実験 によって 確かめられました (1922). これもまた, 電子の 粒子性波動性二重性に起因する ことは言うまでなく, 古典論では絶対に ありえないことです.

  「エネルギー固有値」
 水素原子の エネルギー固有値 は,量子数 n だけで 決まり,

となります. n = 1 が 最低エネルギーの状態 ですから, 基底状態 です. n = 2, 3, ・・・ が 励起状態 です. 基底状態のエネルギーは

です. 水素原子の 基底状態と 励起状態の エネルギー固有値が 下図示されています.

  水素原子のエネルギー固有値
水素原子の場合の シュレーディンガー 方程式 (1) を解いて 得られた エネルギー固有値 (水平の線).
n = 1 が 基底状態.
横軸は電子の位置 (原点からの距離) の変数 r を, ボーア半径

を単位にして 表しています.


  「電子の"存在確率"」
 水素原子の各々の 固有状態において, 電子がどの位置に 見出されるか,その "存在確率" は 大変興味が あります. そこで,下図低いエネルギーの いくつかの固有状態に対して

を図示しました. なお,この "存在確率" を 積分すると,

となって, 全確率が 100 % になるように 規格化されています.
 下図の 一番上の図が 基底状態 です. ほとんど全ての 確率が ボーア半径 のあたりに集中していることが 明らかです. しかし 励起状態なると,確率は 随分遠方に分布します. つまり励起状態になると, 水素原子は 随分膨らんできます.


  「このページの結論」
 このページでは, 水素原子の場合の シュレーディンガー 方程式の解が どのようになるかを 見てきました. その中には, 「ミクロの世界」−その1− 第4部 第3ページボーアの量子論 が 完全に 含まれていました.
 シュレーディンガー 方程式 という たった1つの原理から, 水素原子の構造の 全てが導き出せるのです. 量子力学いかにすばらしい 理論であるか, そして いかに 基本的な理論であるかが 分かります.

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