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3-2: 核 力 (核子間相互作用)

   前ページにおいて, 巨大な核エネルギーの 源泉は 原子核の結合エネルギーである, ということを学びました.
 では, 原子核の結合エネルギーとは 何でしょう. これについては 2−3: 「原子核の質量,結合エネルギー」 のページで詳しく 説明しました. 要約すれば 次のように言えます:
 原子核は多数の 核子 (陽子と中性子)が 核力 という 相互作用で互いに 結合し合ってできています. その結合の強さが 結合エネルギーで 表されます. 結合が強ければ強いほど 結合エネルギーが 大きくなります. 結合エネルギーが 大きければ, その分だけ全体の 質量が軽くなります. この質量の減少分を 質量欠損いいます.これを アインシュタインの質量とエネルギーの等価性 の式によって エネルギーに換算したものが 結合エネルギーです.
 従って,核エネルギーの 源泉であるところの 原子核の結合エネルギーの そのまた源泉は, つきつめれば 核力 である, ということになります. つまり, 「核エネルギーの源泉は 核力である」 ということです.
 では核力とは いったい何でしょう.

  「クーロン力の起源」
 荷電 q と q' の間には クーロン力が働きます. q,q' が同符号の場合には 斥力,異符号の場合には 引力です. 電磁場の量子力学 (場の量子論) においては, 荷電 q と q' とが 光子 をやりとりする (交換する:キャッチボールする)と クーロン力 が現れます. 下図参照
  「クーロン力の起源の概念図」
荷電 q と q' を持つ 粒子が 光子 をやりとりすると クーロン力 が生じます. 図はこれを模式的に 表したものです. 実線は粒子が走っていることを 表現し,下から上に向かって 走っていると考えます.

「湯川の中間子論」
 1935年,湯川秀樹 (日本:1907−1981)は, クーロン力の起源の類推から, 2つの核子(陽子または中性子)が 質量をもつ未知の粒子を 交換することによって 核力 が生じるのではないか と考えました(下図参照). 現在ではこの粒子は パイ中間子 (パイオン:pion) と呼ばれています.
 パイ中間子は 1947年に パウエル (イギリス:1903−69) らによって宇宙線中に発見され, 1948年には加速器によって 人工的に生成され, その存在が確認されました.
   2つの核子間で パイ中間子を交換すると (下図参照), 結果的にその核子間に 力が生じます. それが 核力 です.

 パイ中間子には 荷電が 0 の 荷電が +e の 荷電が -e の の3種類あります. それらの質量は 現在では詳しく測られていて, それぞれ

です.

  「核力の性質」
 クーロン力に比べて 核力は強さが約10倍の 強い相互作用 です. しかし,クーロン力に比べて 力の到達距離 (相互作用半径)が 極端に短いという 特徴があります. つまり,核力は 力の強さは極めて 強いけれども, 核子同志が 十分近距離に 近づかなければ 働かないという 性質があります. また,核子同志が 極端に近づくと,( 以下), 強い斥力 (反発力) が働くということも 分かっています. しかし, 以下の 近距離における 核力の詳細は まだ十分には分かっていません.
 下図核子間の核力のポテンシャルと, 荷電 e荷電 -e との間の クーロン力のポテンシャルの 大雑把な比較が 示されています.

  「核力とクーロン力の比較」
核子間の核力のポテンシャルと, 荷電 e荷電 -e との間の クーロン力のポテンシャルの 大雑把な比較. 実線核力, 破線クーロン力. 横軸は粒子間の距離 r を表します. r = 3 fm 以下では 核力の方が圧倒的に強い. 核子同志が 極端に近づくと,( 以下), 強い斥力 (反発力) が働くことに注目してください.
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