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3-3: 核 分 裂

   前々ページの 3−1:「核エネルギーの源泉」のページ で, 原子核反応の 発熱反応の1例として, ウラニウム235( )に中性子を当てると 核分裂を起こして 巨大なエネルギーを 放出するということを 述べました. そのプロセスの1例を 方程式で書くと

と表されます. Q が放出される エネルギーで,1過程当たり 200 MeV 以上にもなります. この分裂反応を 模式的に分かりやすく 表すと 下図 のようになります.

  「ウラニウム 235 の核分裂の模式図」
ウラニウム 235 に中性子を当てます. 中性子を吸収した ウラニウム 236 は 質量がほぼ同じ2つの 原子核に分裂し, 同時にいくつかの 中性子とともに 約 200 MeV もの 巨大なエネルギーを 放出します. この例のように 分裂して出来た原子核が 常に Ba や Kr とは 限りませんが, 質量がほぼ似たような 2つの原子核に分裂する ことはわかっています. そのとき放出される 中性子の数も 1個から数個の間に 分布します. 放出されるエネルギーも 多少分布しますが, 大体 200 MeV くらいです.
   上にあげたプロセスは ウラニウム 235 の核分裂の 1例です.この他に 沢山のプロセスがあります. 例えば下記はその例です.

  「核分裂の発見」
 ラザフォード放射性元素の ポロニウム (Po) や ラジウム (Ra) から 放射されるα粒子を いろいろな原子核に当てる α粒子散乱の実験を行ない, 人工原子核変換はじめて成功しました(1919).
 その後,このような 原子核による α粒子散乱の実験が さかんに行なわれ, チャドウィックポロニウムからのα粒子を ベリリウムに当てると, 質量が陽子とほぼ同じで 電荷を持たない粒子が 飛び出すことを確かめ, 中性子を発見しました
 1939年,ハーン (ドイツ:1879−1968)と シュトラスマン (ドイツ:1902−68) は ウラニウム235( )に中性子を当てる実験を行ない, Z = 56 の バリウム (Ba) や Z = 57 の ランタン (La) が 生成されることを 見つけました. 永年にわたり ハーンの良き共同研究者であった マイトナー (オーストリア:1878−1968) は, ナチスの迫害から スエーデンに逃れていましたが, ハーン達の実験結果の報告を 手紙で受けとり,彼女の 甥の フリッシュ と共に 解析した結果, これが 原子核分裂 によるものであるという 確信をもち, その考えを発表しました. これこそ最初の 核分裂の発見 でした.

  「核分裂のメカニズム」
  核エネルギーの源泉 のページ で述べたように, ウラニウム235 のような 重い原子核は, 質量がほぼ同じ2つの より強く結合した 原子核に分裂する方が エネルギーに余剰ができ, エネルギー的に 有利になります. 従って,重い原子核は 常に核分裂しようとする 方向の性質を 潜在的に持っています.
 このような性質を持つ 重い原子核が どのような機構で 核分裂するのか, 液滴模型考え方を用いて 説明しましょう.
 原子核は多数の核子 (陽子,中性子) からなる多体系ですが, 多数の水の分子からなる 水滴 のように 「液滴」 とみなす ことができます. ですから,重い原子核は 水滴のように「やわらかく ぶよぶよ」 していると 考えられます. しかし, 核子間に強い 核力働いていて 「表面張力」働きをするので, 基底状態では 直ぐには分裂しませんが, エネルギーが少し与えられて 励起状態になると, やわらかい「液滴」容易に変形し 分裂します. 下の2図そのメカニズムを説明する 模式図です. この図によって 核分裂の機構が 理解できると思います.

  「液滴模型による核分裂の模式図」
ウラニウム 235 のような 重い原子核に 中性子を当てます. 中性子を吸収した 原子核は 励起状態になります. やわらかい重い原子核は 容易に変形し, 場合によっては 「ひょうたん型」になり, ついには2つの 原子核に分裂します. そのとき 余ったエネルギーを 放出します.



  「核分裂におけるエネルギーの概念図」
図は横軸に核の変形の度合いを 表した重い核のエネルギーの 概念図です. 基底状態はポテンシャルの 山の中央の谷間に 閉じ込められていて 安定ですが, エネルギーを与えられて, ポテンシャル障壁の 頂上近くまで励起すると トンネル効果 によって 障壁を透過して, 山を駆け下って, 核分裂します.

  「連鎖反応」
 ウラニウム235 が 核分裂すると, この ページのトップ反応方程式で示したように, 同時にいくつかの 中性子が放出されます. ウラニウム235 の分裂には いく通りかのタイプがあり, それぞれのタイプによって 出てくる中性子の数が 異なりますが, 平均的には約 2.5 個の 中性子が放出されます. この中性子が別の ウラニウム235 に当たると 次の核分裂が起きます. このように「ねずみ算のように次々と 核分裂反応が連続的に 起きることを 連鎖反応 と言います.
 1939 年に ハーンとシュトラスマンによって 最初に核分裂が 発見されるや, 世界の物理学者は 直ちにこの連鎖反応の可能性に 注目し,その軍事利用 (原子爆弾 = 核爆弾) の 危険性に気づきました.
 この 連鎖反応最初に実験的に行なったのは, イタリア・ファシスト政権からの 圧迫を逃れて アメリカへ亡命した フェルミ (イタリア,アメリカ:1901−54) を中心とするグループでした (1942).

  「原子炉」
 核分裂の連鎖反応を 持続的に起こさせ, 核エネルギーを 取り出す装置を 原子炉 といいます. 原子力発電所の 中心になる設備です. フェルミ が連鎖反応の 最初の実験を行なった シカゴ大学の装置が 世界第一号原子炉と言えます.

  「その他の核分裂物質」
 通常,中性子をあてて 核分裂を起こさせることができる 元素を核分裂物質 といいます.
 ウラニウム235( )以外で 核分裂を起こす最もよく知られた 核分裂物質は,プルトニウム(Pu)です. プルトニウムは人工的に 生成された放射性元素で, 天然には極めてわずかしか存在しません. 数多くあるプルトニウムの 同位体の中で, 核分裂物質として 最もよく使われるのが プルトニウム239 )です. 通常は原子炉の中で ウラニウム238 ( )から 作られます. (ウラニウム238 は 核分裂を起こしません. つまり原子炉の中で 「燃えません」.)
 その他に Z = 90 の トリウム (Th) も核燃料として利用可能で, 天然に存在します.

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