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2-1: ヤングの実験,電子の波動性


   本セミナーの 「ミクロの世界」−その1− で,光や電子が 粒子性波動性 とを ともに持つ謎の存在である ことを学びました.
 ここで,この 二重性 について 「おさらい」 を しておきましょう.

  「光の波動性と粒子性」
 「ミクロの世界」−その1− の中の 3-8 の ページ および エピローグ で 説明したように, 光の波動性は ヤング (イギリス: 1773 - 1829) による 二重スリットの実験 で 確かめられました.
 もう一度その実験を 振り返って見ましょう. 見やすくするために, 「ミクロの世界」−その1− の 3-8 の ページ に示した 図を再掲します.

  ヤングの二重スリットの実験の概要
位相のそろった 単色の光源からの光は 2つのスリット S1S2 を通って 右の衝立上に 干渉じま (縞) を生じます.


   ヤングの実験での 干渉じま (縞) の写真が 下図示されています. 図(A)2つのスリットの1つを 閉じたときの写真であり, 図(B)2つのスリットを 開いたときの 干渉じま の 写真です.


 前にも説明しましたが, この干渉じま の写真において, しま (縞) 模様ができるのは 光の波動性によります. しかし,写真が撮れるのは 光の粒子性が あるからです. つまりこの干渉じまの 写真は,いわば, 光の波動性と粒子性の 「共同作業」 によるものです. このことを念頭に 置きましょう.
 光の波動性は, ヤングによって 確かめられましたが, 一方,光の粒子性は 20世紀のはじめ, プランク (ドイツ: 1858 - 1947) のエネルギー量子仮説 に基づき, アインシュタイン (ドイツ,アメリカ: 1879 - 1955) によって提唱された 光量子 (光子) 仮説 が実験的に確かめられ, 確立しました.

  「電子の波動性」
 J. J. トムソン (イギリス: 1856 - 1940) による 電子の発見以来, 電子は極めて微小な, ほとんど点と見なすことのできる 粒子であることは, 誰も疑いませんでした.
 ところが,電子は 粒子であるだけでなく, 波動の性質も持つ ということを ド・ブローイ (フランス: 1892 - 1987) が提案し,実験的にも 確かめられました.
 電子だけでなく, その他の物質粒子も 粒子性と波動性の 二重性を持つことが 確かめられました.

  「二者択一的考え方を捨てよう」
 20世紀のはじめ, 世界の物理学者たちは, 光や電子の波動性と粒子性 の深刻な矛盾に 突き当たってしまった, と言いました ( 「ミクロの世界」−その1− の エピローグ ). しかし,これは 本当に矛盾なのでしょうか.
 私達は,光や電子が 「波動」 であるか 「粒子」 であるかの どちらかだと 二者択一的に 考えるから矛盾だと 思うのではないでしょうか. 「粒子」 であるか 「波動」 であるかの どちらか一方でなければ ならないと考えるのは, 古典論的な考え方で, この「二者択一」 的な 考え方をやめて, 両方の性質を持つのが 「ものの本質だ」 と 考えることは できないでしょうか.
 上の ヤングの干渉じま の写真は,光の 波動性と粒子性の 「共同作業」 の結果だと 言いました. この二重性が無ければ 干渉じまの写真は 存在しないのです. この事実は 上記の 「二者択一」 的 考え方を完全に 否定しているのです.
 私達は既に 量子力学における 波動関数 が, 粒子が見出される確率を 表している,ということを 知っています (第1部 1-5: 波動関数の意味正確に言えば, 波動関数の絶対値の 2乗が粒子の "存在確率" の 確率密度です.) 賢明な諸君は 既にお気付きだと 思いますが, 量子力学では 確率 という 概念を導入することによって, 上記の「二者択一的 考え方をしないで」, 波動性粒子性見事に統一しているのです.
 このことを, 次ページ以下で, 少し詳しく 検討しましょう.

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