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2-2: 粒子と波動の統一

   前ページで述べたように, 光や電子は 波動粒子両方の性質を 兼ね備えています. 波動性粒子性 とを ともに有するのが 「ものの本質」です.  それでは, どこに 波動性 が現れ, どこに 粒子性 が 現れるのでしょう.

  「波動性と粒子性はどこに現れる?」
 ヤングの実験で 干渉じま(縞) ができるのは 光の波動性の 表れですが, 光が写真フィルムの中の ハロゲン化銀の 分子に作用して, 光化学反応をおこし 銀が析出するのは, 光が粒子として 吸収されるからです. 析出した銀は,いわば, 光の粒子 (光子) の「痕跡」です. この無数の痕跡が集まって 干渉じま(縞) として 写真の像となります.
 光子がどの位置にある ハロゲン化銀分子に 当たるか,すなわち どの位置に「痕跡」を残すかは, 確率的に決まります. 光子の "存在確率" が高い場所には 多数の「痕跡」が残り, "存在確率"が低い場所には 「痕跡」が少なくなり, この濃淡が干渉じま となるわけです.
 このように, 光は写真に撮るなどして 「観測」すると 粒子性を示します. 光が金属に当たって 光電効果 ( 「ミクロの世界」−その1− の中の 3-6 の ページ 参照 ) を起こす場合や, 光が電子と衝突して 散乱する場合 ( コンプトン散乱 「ミクロの世界」−その1− の中の 3-7 の ページ 参照 ) のように, 光が他の物質と相互作用 する場合,光は 「粒子」として作用し, 粒子性現れるのです. 空洞放射においても, 光は空洞の壁から 「粒子」として 吸収・放出され, 粒子性が現れます.

  「電子の粒子性と波動性を 計算してみよう」
 電子の粒子性と波動性の 関係を理解するために, ヤングの実験と同様な 二重スリットの 実験を,シュレーディンガー方程式 波動関数考慮して, コンピューター上で 再現してみましょう.

  [ 図 (A) ] 左遠方より 電子線 が進行して,2つのスリット を通過し,右の衝立 F の上の フィルムに 感光するものとします.

[ 図 (B) ] 上の 実験における 波動関数 の様子の 概略 (断面図) です. 2つのスリットを通った 波動関数は 球面波状の波となって 重なり合って干渉する でしょう.
   パソコン上で 上の 図 (A) のような 二重スリットの実験を することにしましょう. 左遠方より 電子線 (陰極線) が進行して,2つのスリット S1S2 を通過し,右の衝立 F の上の フィルムに 感光するものとします. 電子相互の間の 影響を避けるため, 電子線の強度 (単位時間当たり, 単位断面積当たりの 電子の数) は 十分弱いものとします.
 図 (A) の実験 における波動関数の 断面図が 図 (B) です. 入射電子の波動関数は 左方から一様に進行する 自由粒子の波動関数ですから, 平面波 です. スリット S1S2通過した波動関数を それぞれ ψ1 ψ2 としましょう. それらは2つのスリットの 位置から 球面波 状に 広がって行く波となります. 厳密に言えば,スリットは y 軸に沿った 細長い短冊状ですから, 球面波ではなく, 円筒形の波になるでしょう. これらの2つの波動関数を 重ね合わせたもの, すなわち Ψ = ψ1 + ψ2 が,右方向に進行して 衝立 F 上の フィルムに到達 するでしょう.
 これらの波動関数は いずれもエネルギーが 一定の,したがって 振動数が一定の状態ですから, 定常状態の波動関数で 表されます. ψ1ψ2波動関数の 近似的な関数形は, 別のページ
2-2-A: 平面波と球面波
の説明から 得られます. その結果を用いて |Ψ|2計算することによって, フィルム F 上で 電子がどの位置に 見出されるかという "存在確率" が 計算できる筈です.
 電子が1個 フィルムに 当たると,フィルム上の1点に 1つ像を結びます. 電子の波動関数が 平面波 のときには, "存在確率" はいたるところ 一様ですから, フィルム上のどの点に 像ができるかは 完全にランダムです. 電子を多数回入射させて, このようにランダムな 像 (点) の分布を作るのは, パソコンのプログラムで 一様乱数を発生させる ことによって可能です. この一様にランダムな 分布に,上記の 波動関数による "存在確率" |Ψ|2 = |ψ1 + ψ22 を掛けた分布を作れば フィルム F 上の 電子の像の 分布ができます.
 このようにして パソコン上で 計算した電子の分布が 下の 写真風の図 に示されています. 入射電子の個数を 1秒 (s) 当たり 数10個にセットして, フィルムの「露光」時間を 1s から次第に長くして みました. 短時間の場合, 像 (点) は 極めてまばらに乱雑に 分布しますが, 時間を長くすると だんだん縞模様が 見えてきます. これが電子の 干渉じま(縞) です.
 この結果を見ると, 電子の 粒子性波動性量子力学の中に 見事に融合・統一 されていることが 理解できるでしょう.
 下図 の干渉じまは, パソコン上で 量子力学に従って 計算して作ったものですが, 同様の内容の 実際の実験で, 極めてよく似た写真が 外村 彰 (日立中研) らによって 撮影されています (1989).

  パソコン上での 電子による2重スリットの実験
量子力学に従い, パソコンで数値計算を 行って, 電子による 2重スリットの実験 をシミュレートしました. 入射電子の個数を 1秒 (s) 当たり 数10個にセットして, フィルムの 「露光」 時間を 1s から 256s まで 変化させてみました.

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