修士2年の鹿田さん、博士1年の北川さん、田中聖臣准教授らによる、放射線検出器の開発に関する論文が国際学術誌NIM Aに掲載されました。
研究の背景と成果
原子核実験において、到来するイオンの種類を正確に見分ける(粒子識別を行う)ためには、イオンが物質中で失うエネルギーの大きさ(ΔE :エネルギー損失)を測定する必要があります。
「垂直電極型マルチサンプリング電離箱(MuSIC)」は、イオンの入射方向に対して電極を垂直に複数枚設置し、多層構造の読み出しを行うことで、優れた高計数率耐性が期待される検出器です。しかし、従来の構造ではイオンが止まる層において「イオンがどこまで深く進んで止まったか」に依存して信号の大きさが変わってしまうという課題がありました。これが原因で、エネルギー損失のデータに歪みが生じ、正確な粒子識別を妨げていました。
そこで本研究では、この問題を解決するために「フリッシュグリッド(Frisch grids)」と呼ばれる電極を初めて垂直電極型MuSICに導入しました。
アメリシウム241(241Am)のα線源を用いた実験により、フリッシュグリッドが「イオンの停止深さによる信号の歪み」を見事に抑制することを確認しました。
シミュレーションツール(Garfield++)を駆使し、なぜ歪みが抑えられるのかという幾何学的なメカニズムを解明しました。さらにグリッドの電圧やグリッドとアノード(陽極)の間の距離が性能にどう影響するかを調べ、検出器の最適な設計条件を明らかにしました。
今後の展望
近年の大強度RIビーム実験では、1秒あたり数十万個など極めて高いレートで到来する不安定核を高速かつ正確に、1原子核ごとに監視・識別する「ビームモニタ検出器」の性能向上が必須となっています。
今後は、今回確立した最適化指針をもとに、高計数率・大強度なビーム環境下での粒子識別能力やエネルギー分解能を実証し、将来の低エネルギーRIビーム実験における堅牢な標準検出器としての運用を目指します。

図1 : 垂直電極型マルチサンプリング電離箱(MuSIC)の3D図と電極構成。検出器内はP10ガスで満たされており、入射イオンによってガス粒子から電離した電子による誘導電荷を陽極(anode)で読み取ることでエネルギー損失(ΔE )を測定することができます。今回開発したMuSICでは、2層目の陽極の前後にフリッシュグリッドを設けました。

図2 : ガス圧の変化によって入射粒子の停止位置を変化させて取得した、1層目と2層目のエネルギー損失の相関データ比較。 (a) フリッシュグリッドがない従来の構造では、350 hPa 付近で信号の歪み(distortion)が発生しているのに対し、(b) 新たにフリッシュグリッドを導入した構造では、歪みが劇的に抑制され、ほぼ線形な正しい応答(相関)が得られていることが分かります。
論文情報
雑誌名:Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A (NIM A)
タイトル:Performance evaluation of a vertical-electrode multi-sampling ionization chamber with Frisch grids for high-rate heavy-ion measurements
著者:R. Shikada, N. Kitagawa, M. Tanaka, T. Fujii, N. Miyashita, T. Niwase, G. Otsuka, H. Watanabe, S. Sakaguchi
所属:九州大学、明治大学