核物性、およびその発現機構の解明
身の回りの物質を構成する原子、その中心にある原子核は陽子と中性子からなる多体系ですが、その性質はどのようなものでしょうか?また、その性質を支配している強い力(核力)はどのような力なのでしょうか?原子核が発見されて 100 年以上が経った今でも、これらは最先端な最難問として立ちはだかっており、原子核の見せる多様性・複雑性の奥に潜む根源的な性質を見出すべく、様々なアプローチが続けられています。我々のグループでは、特に「スピン」を武器として、上記の基本的かつ挑戦的な疑問に答えようとしています。具体的には下記のような研究を展開しています。
核力・核物性の発現機構(若狭)
物質の質量の起源はどこにあるのでしょうか?物質は陽子や中性子などの「核子」によって、さらに核子は3つのクオークによって構成されています。しかし、クオーク3つの質量を足し合わせても、核子の質量の数%にしかなりません。実は核子質量 (つまり物質の質量)の大部分は、真空中にクオークと反クオークの対が凝縮しこれらがクオークと相互作用する、という過程でダイナミックに生じるとされています。
この凝縮の強さは、下図に示すような密度と温度依存を持ち、原子核中のような超高密度空間では真空中の2/3程度まで減少するとされています (質量が軽くなる) 。この質量変化は、原子核中での核力 (核子間にはたらく強い力) の変化として観測可能です。特にスピンに関連した観測量は敏感であるとされており、我々は原子核中での陽子散乱を真空中と直接比較して、陽子の質量獲得機構に迫ろうとしています。


核応答・集団運動(若狭)
原子核は比較的はっきりした表面を持つため、外場に対して形状が歪んだり、復元力により原子核全体が集団的に運動したりします。また、原子核特有の新奇な変形をしている可能性も示唆されています。このような原子核という量子系固有の現象やその創発機構を、核反応により励起しその応答を見たり、高スピン・高励起の状態を作り出しそこから放出されるガンマ線などを測定したりすることにより研究しています。
特別研究の内容(これまでの例)
特別研究では、原子核の研究を行うにあたって必要な知識、技術の習得をしてもらい、それらを駆使した最前線の研究にも触れてもらいます。
まずは、放射線検出器の作成、電気回路やデータ収集系の構築を、特研生が主体となって教員や院生がサポートしながら行います。例えば、ガンマ線の放出角度非等方性の測定、ガンマ線のコンプトン散乱の測定、宇宙線(ミュー粒子)のフラックス測定などを通じて、実際に体験しながら知識・技術を習得します。その後、九大のタンデム加速器を用いた実験にも参加して、加速器実験の現場を体験してもらいます。
後期には各個の独自テーマを設定して研究を行います。各教員の最前線の研究テーマに関する実験へ参加したり、そこで用いる検出器(イオンチェンバー、中性子検出器、ガンマ線検出器)の開発や改良を行ったりします。得られた成果についての学会発表も積極的に行います。
